RESEARCH

研究概要

図1. これからの社会を支える新材料

 パソコンや携帯電話をはじめとする電子機器は現代社会において欠かすことのできない重要な役割を果たしています。 これらの電子機器の動作を実現しているのが多様な機能を持つエレクトロニクス材料です。 エレクトロニクスの分野では多くの研究者がさらなる高機能実現を目指し、日々試行錯誤を重ねています。

 我々の研究室では最先端の固体化学技術を駆使し、新機能を実現するための新材料開発を行っています。 特に、電子部品としての機能を持った素子(デバイス)作りに重要なナノスケールの薄膜技術を中心に 特別な構造の結晶の合成、電気・磁気・光学特性の測定、現象の理解を通した新しい学理の構築といった 幅広い研究活動を行っています。このページではその一部をご紹介します。

希土類モノオキサイドの合成と物性開拓

準備中

[1] K. Kaminaga, R. Sei, K. Hayashi, N. Happo, H. Tajiri, D. Oka, T. Fukumura and T. Hasegawa, Appl. Phys. Lett. 108, 122102-1-4 (2016).
[2] Y. Uchida, K. Kaminaga, T. Fukumura, and T. Hasegawa, Phys. Rev. B 95, 125111 (2017).
[3] K. Kaminaga, D. Oka, T. Hasegawa, and T. Fukumura, J. Am. Chem. Soc. 140, 6754 (2018).

Bi正方格子を有する層状酸化物R2O2Bi (R: 希土類金属)における物性開拓

準備中

[1] R. Sei, S. Kitani, T. Fukumura, H. Kawaji, and T. H. J. Am. Chem. Soc. 138, 11085 (2016).
[2] K. Terakado, R, Sei, H. Kawasoko, T. Koretsune, D. Oka, T. Hasegawa, and T. Fukumura, Inorg. Chem. 57, 10587 (2018).

高温強磁性半導体(Ti,Co)O2

図2. スピントロニクスの概念図

 多くの電子デバイスは電気特性(電気の流れやすさなど)を人工的に制御できる物質である半導体の性質に基づいています。 近年ではデバイス機能向上のために、その他の性質を持った半導体の開発が求められています。 そのうちの一つが強磁性です。強磁性体は自発磁化を持つ物質(磁石)で、その向きを外部から磁場を印加することで変えることができます。 電気特性と磁気特性を複合的利用する"スピントロニクス"は次世代の電子機器を可能にする新たな技術として期待されています。

図3. 代表的な強磁性体のキュリー点の推移

 強磁性体には温度を上げていくと自発磁化が小さくなり、やがてある温度(キュリー点)で消失する性質があります。 電子デバイスで使う材料は通常の環境(室温:約300 K)で動作する必要があります。 室温で強磁性を示す物質にはFe、Co、Niや合金などの金属材料が多く、 GaMnAs、InMnAsなどの多くの強磁性半導体は、キュリー温度が低いため、室温で使うことができませんでした。 我々が発見した500 Kを優に超える高いキュリー温度を持つ強磁性半導体(Ti,Co)O2は、この問題を見事に解決し、 半導体スピントロニクス研究の道標となっています。

 最近では、磁気力顕微鏡を用いることで(Ti,Co)O2の微細磁区構造の観察に成功しました[2]。 (Ti,Co)O2の磁区の観察は今までにも試みられてきましたが、 過去の試料では品質が充分でなかったり、自発磁化が小さいといった原因で明瞭な像を得ることはできませんでした。 そこで我々は、自己バッファ層の導入による高品質な単結晶薄膜の作成法を確立し[3]、終にはサブミクロンオーダーの磁区構造を観察しました。 この成果を基に、今後、強磁性電界効果トランジスタや電流駆動磁壁移動デバイスについての更なる知見が得られると期待されます。

図4. 自己バッファによる薄膜結晶の高品質化(左)と(Ti,Co)O2薄膜の微細磁気構造(右)

[1] Y. Matsumoto, M. Murakami, T. Shono, T. Hasegawa, T. Fukumura, M. Kawasaki, P. Ahmet, T. Chikyow, S. Koshihara, H. Koinuma, Science, 291, 854 (2001).
[2] T. S. Krasienapibal, S. Inoue, T. Fukumura, T. Hasegawa, Appl. Phys. Lett., 106, 202402 (2015).
[3] T. S. Krasienapibal, T. Fukumura, Y. Hirose, T. Hasegawa, Jpn. J. Appl. Phys., 53, 090305 (2014).

異常原子価を持つY2O2Biの新規合成法

図6. 固相エピタキシーによるY2O2Biの合成

 層状酸化物は、銅酸化物系における高温超伝導を代表として、 巨大物性を示す豊富な機能性物質群として知られています。 層状酸化物は構成する層の結晶構造や組成を変化させることで多様な物性をデザインすることが可能なため、 我々の生活に深く関わるエレクトロニクス分野において、基礎研究、産業応用の両面で欠かせない材料となっています。 また、近年では電子のスピンを利用するスピントロニクス分野の発展が目覚しく、 革新的な低消費エネルギーデバイス開発に大きな期待が寄せられています。 電子スピンの制御にはスピン軌道相互作用の利用が鍵となっているため、 強いスピン軌道相互作用を持つ重い元素であるBiを含む物質の探索に関心が集まっています。

 我々は、Biを含む層状酸化物R2O2Bi(R = 希土類金属、Y)に注目しています。 R2O2Bi中のBiは、−2価という異常な還元状態にあり、二次元正方格子の単原子層を形成しています。 このBi二次元正方格子を持つ他の層状物質では、超伝導転移、質量ゼロのディラック電子の存在、 巨大磁気抵抗などの興味深い物理現象が報告されており、R2O2Biでも同様の魅力的な物性の発現が予想されます。 また、Biの強いスピン軌道相互作用により、次世代スピントロニクス材料と目されているトポロジカル物質(トポロジカル絶縁体/超伝導体) としての性質を示すことも期待できます。このような物質固有の魅力的な性質を引き出すには、 単結晶試料(バルク単結晶体、エピタキシャル薄膜)の作製が必要不可欠です。 しかし、Biの極度の還元状態や揮発性がR2O2Biの合成を非常に困難にしており、これまでは多結晶粉末試料のみが作製されていました。

 我々は上述した合成の問題点を克服してY2O2Biエピタキシャル薄膜を作製するために、 還元性固相エピタキシーという新しい薄膜作製手法を開発しました[1]。 Y2O3アモルファス薄膜とBi、Y金属混合粉末との固相反応というユニークな手法により、 Y2O2Biエピタキシャル薄膜の作製に成功しました。 これはR2O2Bi単結晶試料の世界で初めての合成報告です。 また、非常に強い酸化力をもつY金属がBiと合金を形成することが、合成上の問題点を解決する役割を果たしていることを発見しました。 今後は作製したエピタキシャル薄膜の物性を詳細に評価することで、異常なBi2−正方格子の物理を開拓していきます。 また、この手法における反応メカニズムは強度の還元状態にある元素を含む物質のエピタキシャル成長に適用可能であるため、 他のR2O2Biを含めた類似層状物質の新奇物質、物性探索の裾野を広げることが期待できます。

[1] R. Sei, T. Fukumura, and T. Hasegawa, Cryst. Growth Des. 14, 4227 (2014). [2] R. Sei, T. Fukumura, and T. Hasegawa, ACS Appl. Mater. Interfaces 7, 24998 (2015).